2019年2月15日金曜日

独立行政法人国際協力機構における予算逼迫問題/JICAの資金ショート問題

 「独立行政法人国際協力機構における予算逼迫問題」とは、平成29年度に独立行政法人国際協力機構(以下、「JICA」という。)において発生した、当該年度の支出見込額が予算額を上回る見通しが顕在化した事態。「JICAの資金ショート問題」と表現される場合もある。この問題により平成29年度にJICAが予定していた事業の一部について、規模の抑制、あるいは凍結等の措置がとられたほか、契約相手先に対する支出の繰延べ等が発生し、「契約相手先等関係者に負担をかけたこと、新規のODA事業の実施規模を縮小」(外務大臣)する結果に至った。
 この問題を受けて、JICAでは、「予算執行管理強化に関する諮問委員会」を設置し、予算執行管理体制の改善、内部統制強化に取り組むこととした。直接事象である「予算逼迫問題」に加え、根本原因を含めた問題については「JICA運営費交付金予算執行管理問題」として再発防止策が検討されている。

○前史
 JICAは、途上国で事業を実施するという特性上、事前に正確な予算計画を立案しても計画どおりに実施することに困難が伴う予見不可能性を有している。また、契約の履行後に実費精算を実施するというJICAの契約制度上、年度末に近づくにつれて支出予定額が下方修正される傾向があった。このような事情を背景に、JICAでは年度当初の運営費交付金配分を一部抑制(予算担当部局が一律的に計画額から一律割り引いた予算を配分)し、例年7月ごろに予算を追加配分することが習慣化していた。また、中期目標期間の途中年度においては、60億から150億円の運営費交付金が前年度から繰り越されており、これらについても決算終了後の7月に追加配分されることが継続していた。
 平成28年度にJICAは第3期中長期目標期間の終了を迎えた。独立行政法人は中長期目標期間の終了の都度、執行しなかった運営費交付金(運営費交付金債務)を精算し、財政当局に認められたものを除き国庫に返納することとされており、JICAにおいては、平成28年度中に運営費交付金債務を積極的に執行した。この結果、平成29年度においては、前中期目標期間から繰り越される予算が発生しないこととなり例年より70~100億円程度下回る予算規模となったものの、JICAでは例年どおり、実費精算による支出予定額の下方修正や予算の追加配分、(平成29年度においては存在するはずのなかった)前年度からの繰越予算の配分を見越し、また、途上国における旺盛な開発ニーズに対応すべく、平成29年度当初より予算額を超えるペースで執行を開始した。

○発生事象
 JICAの財源のうち、国の予算に該当するものについては、一般勘定及び有償資金協力勘定から措置される。平成29年度においては、個別法に基づく運営費交付金として、一般勘定から1,503億円が交付された。JICAはこのうち事業費として例年並みの1,014億円を割り当てた。しかしながら、平成29年9月の段階で、予算に対して90%以上が契約済みとなる事態に至り、JICAにおいて組織的な執行抑制策が講じられることとなった。

○執行抑制策
  • 実施中の案件の後ろ倒し(115件、76億円の支出を後ろ倒し)
  • 平成29年度に開始が予定されていた案件の凍結(175件、28億円)
  • 翌年度に開始を予定していた案件の縮小(過去5年平均の33%まで件数を抑制)
 これらの結果、平成29年度のJICAの決算においては、運営費交付金全体予算の1,503億円に対し、予算執行額は1,458億円となり、支出額が予算額を超過する事態は回避された。

○反響
 平成29年度年央段階で、予算不足の見通しが顕在化したことにより、株式会社国際開発ジャーナル社や毎日新聞系列の雑誌媒体が取り上げ始めた。「サンデー毎日」が12月17日号で「国際協力機構 ”資金不足”に?-”受注60億円減る”-業界団体悲鳴」と報道したのが初出と見られている。「週刊エコノミスト」も「予算管理で異例の”不手際”-JICA見直し論も再燃か」として、これに続いている。
 業界専門誌、「国際開発ジャーナル」は平成30年3月の735号で「JICA資金ショートの実情 開発業界に広がる余波」と題して特集し、大々的に取り上げた。平成29年度秋ごろからの、JICAによる新規契約の取り消し・延期や既契約案件の支払猶予を契約相手先に依頼するなどの動向を紹介するとともに、JICAが開催した企業向け説明会の模様なども報じている。

○対応
 平成30年度に入り、支出額が予算額を超過する事態が回避された後、JICAは原因の究明と再発防止に着手した。まず、6月1日に「JICA運営費交付金予算執行管理問題への対応について」と題した対応方針を公表し、「予算執行管理室」の新設、理事会を通じたガバナンスの強化、情報システムの改善、「予算執行管理強化に関する諮問委員会」の設置などを発表した。同委員会は6月12日に初回の審議を開始している。
 あわせて、「現下の状況に至った責任」として、以下のような措置を講じている。
  • 理事長について給与の10%を3ヶ月自主返納
  • 副理事長について給与の10%を2ヶ月自主返納
  • 全理事8名について給与の10%を1ヶ月自主返納
  • 元上級審議役1名について給与の10%を1ヶ月自主返納
  • 関係理事及び部長の異動
 また、6月末には監事による監査報告や平成29年度の業務実績に関する自己評価(業務実績報告書)が主務大臣に報告された。監事3名の連名からなる監査報告では、JICAの業務について「概ね効果的かつ効率的に実施されたものと認める」、「内部統制システムに関する役員の職務の執行について、特段指摘すべき事項は認められない」とし、予算逼迫問題については、「調整努力を引き続き継続するとともに、必要な改善を着実に進めることが望まれる」との記述に留まっている。また、業務実績報告書におけるJICA自身による予算逼迫問題の評価は、改善の余地を認めつつ「契約相手先等関係者との間で一部混乱を招いた」との記述に留まっている。

○主務大臣等による指摘
 上記のJICAによる業務実績報告書に対し、主務大臣による評価がなされた。これに先立つ有識者への意見聴取では、予算逼迫問題に対し「「一部混乱を招いた」ではすまない深刻な事態と認識している」、「今後、二度と同じ問題を起こさないための分析と対策が見えてこない」、「初歩的なミスとの評価を受けることも免れない」、「日本の国際協力を支えている人びと、企業、団体に多大な運営上、経営上の損害を与えている」、「内外にわたって多くの人びと、企業、団体等が被害者になっていることを深く反省すべき」といった厳しい指摘が相次いだ。
 これを踏まえ、外務大臣として「外務省としても重く受け止めている」「抜本的な改善の取り組みを継続的に行う必要がある」として、「深刻な事態として受け止め、関係者への影響を最小限とすることに留意しつつ、予算執行管理体制の改革を含む再発防止策の策定・実施を通じて、事態の早期正常化」を実現させるよう指摘がなされた。

○原因究明と再発防止策
 JICAの「予算執行管理強化に関する諮問委員会」は、平成30年12月に最終報告書をまとめ、公表した。同報告書では、原因究明として以下のような検証を示している。

直接原因:
  1. JICAにおける「運営費交付金債務管理に係る理解の不足」(中期目標期間終了年度において運営費交付金債務の残さずに全額使い切るとの意識の作用、中期目標期間を跨いで繰越して平成29年度に執行すべき予算を平成28年度に別の使途で執行したことなど)
  2. 事前統制の緩みと面積管理の未定着(独立行政法人の裁量に基づき自律的に行うべき事前の統制の認識不足、複数年度にわたる案件と後年度の支出計画管理の未定着)
  3. 年度当初での抑制的配分と繰越予算の追加配分という運用(上述の追加配分の慣習化のほか、JICAの経理業務統合システムにおける運用(システムの統制機能を解除し、予算額を超える契約や支出を可能とした運用)、事業管理、経理等の複数のシステムごとに同一項目を入力することによる一元的な予算管理の阻害)
  4. 予算見積もりの変動を適切に把握し管理する意識の不足(過去の経験則に基づく予算管理)

根本原因:
  1. 担当役員や管理職における予算に対する管理意識の不十分さ
  2. 予算管理の動機付け(人事評価制度等)の不足
  3. 管理会計的なコントロールの不足

 また、同報告書では原因究明の結果を踏まえ、具体的な改善策として次のような提言を示している。
  1. 理事会審議を経て概算要求及び年度計画予算策定に反映する事前メカニズムの構築等の事前統制
  2. 柔軟な計画変更を前提としつつ適時・適切な予算執行管理の徹底
  3. 複数年度事業の後年度支出計画額の把握と管理
  4. 年度予算の執行管理の適正化
  5. 階層別の責任・成果の明確化など予算管理手法の確立
  6. 予算の執行状況の可視化と理事及び理事会の役割の明確化
  7. 資源配分メカニズムの強化と人材育成

→運営費交付金債務
→役員会/理事会/理事会議/役員会議

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