独立行政法人は、個別法の定めるところにより、独立行政法人の長(多くの場合理事長)及び監事並びにその他の役員(副理事長や理事など)を置くこととされている。ほとんどの個別法においては、独立行政法人の長及び監事について「置くものとする」と明確に定数を規定している他方、その他の役員については、上限人数を定める「できる規定」(例として、「役員として、「副理事長〇人及び理事〇人以内を置くことができる」)とされるケースが多く、原理的には、独立行政法人の長は特に理事を任命せず自らと監事のみで独立行政法人を経営することが可能と解される。
〇事例
独立行政法人において独立行政法人の長及び監事を除く役員が空席となったケースとしては、平成30年度の独立行政法人経済産業研究所の事例が見られている。個別法である独立行政法人経済産業研究所法では、2名を上限として理事を置くことが「できる」とされているところ、理事長はこの「できる規定」に基づく任命権を行使しないこととし、7ヶ月間、自らと監事のみにより独立行政法人の経営を担ったとされている。この理事空席の7ヶ月間について、令和元年8月2日の第22回総務省独立行政法人評価制度委員会においては、以下のような事情が明らかにされている。
- 主務省の都合(経済産業省=独立行政法人経済産業研究所間の出向による人事措置)により、理事が空席となったこと
- 理事長を補佐する理事が空席となったことに伴い、理事長及び監事のみで「理事会」を開催する状況にあったこと
〇論点
この理事空白の7ヶ月間について、独立行政法人評価制度委員会における議論のほか、独立行政法人通則法等に照らして、以下のような論点が考えられる。
経済産業省における人事措置を待たず、理事長が任命権を行使して、独立行政法人経済産業研究所内外から理事を任命することの可否
- 理事の任命権は理事長が有しているところ。仮に、経済産業省からの出向者が当該理事のポストに就くことが常態化していたとしても、これは不文律に基づく措置であることから、原理上は理事長が職員又は民間の人材を理事を登用することで、理事空席を回避することが可能であったことが指摘されている。
- ただし、国家公務員の独立行政法人役員への出向については、「大臣の任命権の下」で行われる旨、「退職管理基本方針」(平成22年6月22日閣議決定)及び「参議院議員浜田昌良(公明)提出菅内閣による「天下り規制骨抜き」に関する質問に対する答弁書」(平成22年8月10日閣議決定)により示されていることから、理事長の役員任命権と、大臣の国家公務員に対する出向の任命権の関係については慎重な検討を要する。また、本質的な要素ではないものの、国家公務員からの出向者については「国への復帰を前提」としているところ、独立行政法人を退職する場合の退職手当は発生しないものの、職員又は民間の人材から理事を登用した場合には、退職手当を支払う必要から新たな費用負担が生じる可能性にも留意する必要がある。
- なお、独立行政法人評価制度委員会においては、「そもそも独立行政法人ですので、主務省の異動でそのような空席みたいなことがあってはならない」、「そう(出向による役員人事の手配がつかない)であれば理事の方はやはり民間から起用すべき」といった意見が見られている。
理事を空席とすること自体について
- 独立行政法人の役員の上限数については、個別法ごとに定められており、独立行政法人毎に区々となっている。このため、個別法の検討過程においては各独立行政法人の規模や業務内容を勘案し、理事長に必要な補佐を確保する上での「一定の分掌水準」として役員の上限数が算定されていると考えることが自然と考えられる。
- 独立行政法人の長に事故のある又は欠員の場合、代行権の継承順は、その他の役員(副理事長を置く法人については副理事長、次いで理事)、監事の順となる。独立行政法人経済産業研究所の場合は、個別法により理事長、理事、監事の順とされているが、理事の空席に伴い、直ちに監事が代行権第一位となる。なお、独立行政法人経済産業研究所の監事2名についてはいずれも非常勤である旨が公表されている。
- なお、独立行政法人経済産業研究所の平成30年度の自己評価書によれば、「内部統制」について特に課題等はなく、計画どおりの水準で実施されたとされている。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。