2018年8月21日火曜日

国立研究開発法人

 独立行政法人通則法における独立行政法人の一類型。研究開発に係る事務・事業を主要業務とし、研究開発成果の最大化を目的とする。平成27年に施行された改正独立行政法人通則法により創設された。

○経緯(民主党政権における独立行政法人改革の検討まで)
 平成20年に議員立法により成立した研究開発力強化法(研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律)において、「研究開発等、研究開発であって公募によるものに係る業務又は科学技術に関する啓発及び知識の普及に係る業務を行うもののうち重要なもの」を研究開発法人として定義することとされた。また同法の衆議院・参議院通過時には、「研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保などの観点から最も適切な研究開発法人の在り方についても検討する」よう附帯決議がなされた。

 平成24年には「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月30日閣議決定)において、「法人の主要な業務として、高い専門性等を有する研究開発に係る事務・事業を実施し、公益に資する研究開発成果の最大化を重要な政策目的とする」「研究開発型」の「成果目標達成法人」の創設に向けて法制的な対応を行うこととされた。独立行政法人通則法改正法案では、研究開発型の法人について国立研究開発行政法人とし、「国立」の名称を使用することで「業務遂行上、国民、諸外国、外国人研究者等からの信頼性の確保等を図る」(平成24年7月17日文部科学省独立行政法人評価委員会科学技術振興機構部会での文部科学省説明)こととした。
 さらに、「国立研究開発行政法人に係る運用改善の方向性について」(平成24年5月10日行政改革大臣、文部科学大臣)では、「国際的頭脳循環の促進」、「研究開発に係る物品及び役務に係る契約・調達に関する基準の策定」といった「研究開発の特性への配慮の必要性等」を尊重することが確認されている。
 以上のような方針を踏まえ、平成24年5月には独立行政法人通則法改正案等が国会に提出されたものの、同11月には廃案となり、自民党への政権交代後の「平成25年度予算編成の基本方針」(平成25年1月24日閣議決定)により、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」は「当面凍結し、(略)引き続き検討し、改革に取り組む」こととされた。


○「新たな研究開発法人」の創設に向けた検討
 政権交代当時の自由民主党は「独立行政法人は行政の執行部門といっても、多種多様な業務が存在するため、業務の性格や性質に合わせた制度にする必要があり、特に研究開発関係は、総合科学技術会議を活用して省庁の縦割りにとらわれない整理・統合を目指します。」(自由民主党政権公約J-ファイル2012)と掲げ、引き続き、独立行政法人改革、特に研究開発関係の独立行政法人の開発に取り組むことを公約した。政権交代後には、党内において「わが国の研究開発力強化に関する提言」(平成25年5月14日自由民主党政務調査会科学技術・イノベーション戦略調査会)が提示され、研究開発法人について「研究開発成果の最大化(ミッションの達成)を目的とする新たな制度を創設すべき」として抜本的な制度改革を求めるとともに、「国家公務員と同等の給与水準を求めることは止めるとともに「国際競争力の高い人材の確保」を可能とすべき」、「運営費交付金の一律削減の見直し」、「一般競争入札にこだわらず、研究の実態にあわせた調達ができるようにすべき」、「随意契約基準額を国並びとする制約を見直すべき」「イノベーション創出促進に資する自己収入(略)については、運営費交付金からルールを設けて減額しない仕組みとすべき」といった個別制度についても改善の要求がなされた。

 これらの動きを受けて、政府が定めた「科学技術イノベーション総合戦略」(平成25年6月7日閣議決定)では、「研究開発法人については、研究開発の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性)等を十分に踏まえた法人制度の改革が必要」「グローバルな競争環境の中で研究開発法人が優位性を発揮できるよう機能強化を図り、現制度の隘路を打開」するとした。さらに、「科学技術イノベーション総合戦略」に基づき、「新たな研究開発法人制度の具体的制度設計」について検討を行うため、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)及び文部科学大臣の下に、「新たな研究開発法人制度創設に関する有識者懇談会」が設置され平成25年9月より2ヶ月間4次の会合が持たれた。


○法制化検討
 独立行政法人改革全般については、平成25年2月より内閣府副大臣の下に「独立行政法人改革に関する有識者懇談会」が設置され、前項の動きに先行して独立行政法人改革の検討が進められていた。「独立行政法人改革に関する有識者懇談会」では、従来の独立行政法人を「中期目標管理を行う法人」と「単年度管理を行う法人」に2分し、研究開発を行う法人については名称や評価の面で「独立行政法人全体の制度・組織の見直しを踏まえつつ、研究開発の事務・事業の特性に応じた規律を整備する」との「独立行政法人改革に関する中間とりまとめ」(平成25年6月5日独立行政法人改革に関する有識者懇談会)を提言している。

 他方、新たな研究開発法人制度の法形式として、「わが国の研究開発力強化に関する提言」では、
  • A案:独立行政法人通則法とは全く別の法律→研究開発の特性を踏まえた制度設計が可能
  • B案:独立行政法人通則法を準用する別の法律→通則法の規定を準用しつも、研究開発特性踏まえた制度設計が可能
  • C案:独立行政法人通則法の下で、「中期目標行政法人」、「行政執行法人」と並ぶ第三のカテゴリーとして「国立研究開発法人」を規定→独立行政法人通則法下にあるための制約を受けるものの、一定の特性を踏まえた制度設計が可能
とし、特にA案が望ましいとする、いわゆる「別法化」が提言された。
 さらに、「新たな研究開発法人制度創設に関する有識者懇談会」においても、「既存の独法制度を前提として、どう特例規定をもうけるかということが問題ではなく」「新たな法制度である「国立研究開発法人制度」を創設すべきである」との結論(「成長戦略のための新たな研究開発法人制度について」平成25年11月19日新たな研究開発法人制度創設に関する有識者懇談会)が提示されたため、研究開発法人についてあくまで独立行政法人制度の範ちゅうに留めるとする内閣官房(行政改革)における検討と、別法化を図るべきとする内閣府(科学技術)・文部科学省の検討が並立することとなった。


○独立行政法人改革
 新たな研究開発法人制度創設に関する有識者懇談会の検討結果は、平成25年11月27日の第115回総合科学技術会議に報告された。会議では、稲田行政改革担当大臣が「独立行政法人制度の下で世界最高水準の研究開発法人制度を構築することが可能かつ適切であり、別法化には問題が多い」との行政改革推進会議における見解を紹介したほか、新藤総務大臣から「研究開発成果の最大化を研究開発法人における第1目的にすること、国の研究開発の実施機関であることを明確化すること、また、国際水準を踏まえた専門的な評価の実施や中期目標期間の長期化といったものは、現在の独立行政法人通則法を改正する。法律改正に基づいて担保させるべきである。」、麻生財務大臣から「研究開発法人というものを別法化するということになると、これは今行っている行政改革の流れと少し逆行するという流れになる。」といった慎重論が示され、互いの検討結果が並立していることが明らかとなった。会議終盤、安倍内閣総理大臣から「本日の議論の中で、世界最高水準の研究開発法人の実現を目指すことについては一致を見たと思う。今後、具体的な制度のあり方について、関係閣僚の間で調整を進め、年末にしっかりした方針を示したい。」として年内をめどに、調整を進めていく旨が示された。

 その後も、「下村大臣と私は、世界最高水準の研究開発法人を作るためには別法化が必要だろうと、そう思っています。」(平成25年12月6日山本内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)会見)とする、別法化を提唱する閣僚と、独立行政法人通則法の範ちゅうに留めるとする閣僚の間で、「ぎりぎりの議論」(山本大臣)がなされ、結果、年度末を控えた12月17日に新藤総務大臣、下村文部科学大臣、山本内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)、稲田行政改革担当大臣の4者間の協議が持たれ、世界水準の「新しい研究開発法人」については、「独法通則法を適用しつつ、国家戦略上の観点から、総合科学技術会議・主務大臣の強い関与や、業務運営上の特別な措置等を別法によって定めること」、対象の法人については「極力少ないものであるべきである」とする合意に至った。
 これらを踏まえ、「独立行政法人等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)では、
  • 独立行政法人制度の下で、「研究開発成果の最大化」を第一目的とし、「研究開発業務の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性)を踏まえ」て「法人の機能の一層の向上と柔軟な業務運営を確保する」とされる「研究開発型の法人」の創設
  • 「研究開発型の法人」に対し、法人の長の報酬、給与水準、必ずしも定量的実績にとらわれない評価、研究開発にかかる調達に関する仕組みなどについて「研究開発成果の最大化に資するため」の「運用改善を図っていくこと」
  • 研究開発型の法人のうち、「世界的な研究開発成果の創設を目指す」、「特定国立研究開発法人(仮称)」を、内閣府・総務省共管の別法により設置すること
  • 別法化の対象法人は極力少数に限定すること、総合科学技術会議が主務大臣の目標設定等に関与すること、処遇を含め人事制度の改革、柔軟な給与設定等の措置を講じること
などが示された。
 このとおり、独立行政法人通則法の下で研究開発型の法人(法制化により国立研究開発法人の名称とされた)を創設する「C案」が採用されることとなり、「痛み分け」とも「ウイン・ウイン」とも称される形で法制化が進められ、平成26年6月13日には、「独立行政法人等に関する基本的な方針」に基づく改正独立行政法人通則法が成立し、翌平成27年4月1日に施行されたことで、31の独立行政法人が国立研究開発法人として、研究開発成果の最大化に向けたスタートを切った。


○国立研究開発法人の運用・運営
 前項のとおり、国立研究開発法人に対しては、「研究開発成果の最大化に資するため」の「運用改善」が図られることとされている。具体的には、目標(総務大臣決定における総合科学技術・イノベーション会議答申の参照)評価(研究開発に関する審議会)での取り扱いのほか、本サイトで採録している行政文書(独立行政法人共通の記述の中で、特に国立研究開発法人に対する例外的取り扱いを示すケースが多い)で示されたルール、運用等が上げられる。内容が多岐膨大に渡ることから、各論に関する記事の整備を進めながら、適宜加筆修正していくこととしたい。
4大臣間の合意(平成25年12月)

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