2018年8月15日水曜日

業務運営効率化目標

 独立行政法人に対しては、主務大臣の定める中期目標等で効率化に関する数値目標(業務運営効率化目標)を定めることとされている。業務運営効率化目標について、独立行政法人共通のルールは存在しない(平成25年10月29日現在、内閣官房行政改革推進本部事務局調べ)とされており、対象経費や具体的な数値目標については主務大臣と財務大臣との協議により個別に設定されている。このため、人件費の取り扱いや費目(一般管理費と事業費に分けて数値目標を設定する場合が多いが、両方の費目の合計値に対して目標設定を行う場合もある)など、独立行政法人ごとに区々となっているが、一般的な例としては「前中期末年度比で、一般管理費△15%、事業費△5%」、「対前年度比で一般管理費及び事業費の合計△1%」といった目標設定がなされている。この数値目標は、中期計画等で記載する「運営費交付金の算定ルール」でも「効率化係数」として反映される。

○経緯(根拠と起源)
 独立行政法人制度の創設等を定めた中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)においては、第38条第1項第1号で「所管大臣は、三年以上五年以下の期間を定め、当該期間において当該独立行政法人が達成すべき業務運営の効率化(略)に関する目標(次号において「中期目標」という。)を設定するものとすること。」、同第3号で「独立行政法人の会計は、(略)弾力的かつ効率的な財務運営を行うことができる仕組みとすること。」とされた。これを踏まえ、先行独法に対しては概ね対前年度比1%から2%程度の業務運営効率化目標が課せられた。
 平成15年には特殊法人等改革により、多くの特殊法人が独立行政法人へと移行(移行独法)することとなり、移行独法の創設にあたり取りまとめられた「独立行政法人の中期目標等の策定指針」(平成15年4月18日行政改革推進事務局)では、「中期目標の期間に法人が達成すべき水準が具体的に定められていると言い得るためには、各法人の実態に則し、効率化の効果として、基本的に、数値目標を提示することが必要」、「基準年度における当該目標値に相当する数値を明示するなどにより、目標水準の設定が国民にとって分かり易いものとすることが必要」として、業務運営効率化目標の設定について指針が示された。「独立行政法人の中期目標等の策定指針」別添の「独立行政法人の中期目標等の具体的な記載例」では、「各事業年度の経費総額を(中期目標の期間を通じ)対前年度比で、平均○%抑制する。」、「一般管理費について、中期目標期間中における当該経費の総額を、初年度の当該経費に5(中期目標期間が5年の場合)を乗じた額に比べて○%抑制する。」といった例示も見られている。
 移行独法の中期目標案について、特殊法人等改革推進本部参与会議のヒアリングがなされ、その際、業務運営効率化目標について次のような指摘が見られた。

  • 管理費5%減というのはもっと突っ込めないか。
  • 経費削減はどの法人も年1%減という印象だが、企業では年1%は誤差の範囲内。企業と違う部分もあり、工夫できるところできないところはあろうが、一律に年1%減というのはおかしいのではないか。
  • 民間企業なら削減目標は年15%減といったレベルである。年1%減には違和感を感じる。
  • 全体として経費削減について1%減あるいは○%減としか書いていないが、1%減では足りない。
  • 一般管理費について、大幅な削減目標の設定が必要。
  • 各種事業の実施に必要な主要な投入に係る単位当たり経費について10%の効率化は、意欲的な目標と評価できる。
  • 業務運営の効率化の目標として、16年度の運営費交付金額の最低限2%の節減では、現在の社会通念上、低すぎるのではないか。特に間接経費の節減により努めるべき。
  • 中期計画等を認めるということは、5年間の独立行政法人の行動を承認するということ。まだ検討段階のものとはいえ、現状のもので承認となるとひどいことになる。毎年の予算査定等で厳格に対処すべき。
※内閣官房行政改革推進本部事務局が公表した特殊法人等改革推進本部参与会議「議事概要」より採録。

 以上の「参与会議の指摘事項」を踏まえ、閣議において石原伸晃行政改革担当大臣(当時)から各大臣に対し、「一般管理費などの経費については(略)一割から二割の削減を指示」(
「十月一日に設立される独立行政法人の中期目標等について」(平成15年8月1日行政改革担当大臣発言要旨))するようが示されたほか、小泉純一郎内閣総理大臣(当時)もこれに同調し、「先行独法についても同等に厳しく」と指示したとされている。結果、移行独法については、中期目標期間中10%から20%の水準で業務運営効率化目標を設定すべしとされたほか、当時、第2期中期目標期間を迎えつつあり、「(略)効率化目標は、特殊法人等から移行する独立行政法人の場合の取扱いと比べても、適切であると判断されているか。」(「平成14年度業務実績評価の結果についての評価における関心事項(「財務内容の改善」及び「業務運営の効率化」)」平成15年7月31日総務省政策評価・独立行政法人評価委員会独立行政法人評価分科会財務内容の改善等についての評価方法の在り方に関する研究会報告)とされていた先行独法に対しても、移行独法と同水準への引き上げが求められていくこととなった。
 平成16年度には、「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日)において先行独法に対し、「特に、業務運営の効率化については、特殊法人等から移行して設立された独立行政法人と同程度に厳しくかつ具体的な一般管理費及び事業費の削減・効率化目標を示すとともに、業務の質の向上についても極力客観的・具体的な目標とすることにより、一層質の高い効率的な業務運営を目指す」ことが明示され、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)では独立行政法人全体に対して、「一般管理費及び事業費に係る効率化目標について、過去の効率化の実績を踏まえ、これまで以上の努力を行うとの観点から具体的な目標を設定する」とされるなど、継続して業務運営効率化目標の維持・強化が図られている。

○運用
 参議院からの要請に基づき、会計検査院が先行独法のうち45法人を対象に検査を実施した結果を記載した「独立行政法人の業務運営等の状況に関する会計検査の結果についての報告書」(平成17年10月会計検査院)では、業務運営効率化目標について、独立行政法人横断的な検査結果が記されている。同報告書では、「ほとんどの独立行政法人がそれぞれの年度において目標を上回る実績を上げているとしている」が、実績値の算出方法(効率化結果の評価方法)については「独立行政法人間で違いが見受けられる」ことを明らかにしており、具体的には、①前年度実績額に対する当該年度実績額の割合を実績とする(前年度決算値に対する当該年度決算値で評価)、②当該年度計画額に対する当該年度実績額の割合を実績とする(当該年度予算値に対する当該年度決算値で評価)、③運営費交付金交付額を算定する際、業務運営の効率化に関する目標値と同じ値を効率化係数としていることから、この算定額を実績とする(当該年度の運営費交付金算定の段階で数値目標を達成したとする)等の事例が紹介されている。
 当該会計検査以降も統一ルールは特段設けられておらず、具体的な対象や数値目標については、主務大臣と財務大臣の協議に基づき、中期目標等にて定められる運用が採られている。(前出、平成25年10月29日現在、内閣官房行政改革推進本部事務局調べ)

○各独立行政法人及び府省等の見解
 上述のとおり、各独立行政法人では、業務運営効率化目標のもと効率化を図っていくこととされたが、平成26年の独立行政法人通則法改正までに、各独立行政法人や各府省等より次のような見解が示されている。

●業務運営効率化目標について改善を要望する見解等

  • これ(業務運営効率化目標など)は、特殊法人改革の一環として定められたものであるが、(略)理研も他の特殊法人と同様にほぼ一律に扱われるという、理研にとって不本意なものであった。(平成17年3月20日独立行政法人理化学研究所)
  • 独立行政法人制度の適用に当たっての問題点(主な例)」として「法人の特性を勘案しない一律の効率化係数による経費削減」を掲げる。(平成22年11月25日文化庁国立文化施設等に関する検討会)
  • 効率化係数による事業費や一般管理費の削減が限界にきているにもかかわらず、自己収入を増加させても新規性や対前年度比増を求められるため経営努力として認定されにくいことや、運営費交付金を財源とする経費の削減は経営努力として認められないという問題がある。(平成25年4月2日内閣官房行政改革推進本部事務局)
  • 産総研では、管理費削減のため、ミッション達成に必要な体制の維持がほぼ限界。また、業務費の削減により、増加をたどる共同研究、産学連携の実施が難しい状況に。NEDOでも、一律削減が課されて予算枠が縮小、国として重要な研究開発を受けることが困難に。(平成29年10月9日経済産業省産業技術環境局)
  • 一律削減を廃止する。あるいは、特に、資金配分法人が行う業務のうち、国が重要として推進を定めた施策・事業(例えば、競争的資金、成長戦略の閣議決定等)や、実施する個別内容や積算について精査を受けた事業については、運営費交付金の一律削減から除外する。(財務省、総務省、行革本部と要調整)(同上)

●業務運営効率化目標について現状維持を求める見解等
  • 「運営費交付金は、「効率化」の名の下に年々「一律」に削減され続ける」という点を「誤解」とし、①業務運営効率化目標は主務大臣と財務大臣との協議に基づいて個別設定されるため一律削減との指摘は当たらない、②運営費交付金の水準は、中期目標の策定の都度、財政当局との交渉で決定され、中期目標期間中においても、新規業務の追加があれば運営費交付金の増額は可能、との見解を掲げる。(平成25年10月29日内閣官房行政改革推進本部事務局)


○平成26年の独立行政法人通則法改正後の動向
 改正独立行政法人通則法及び「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)に基づく、「独立行政法人の目標の策定に関する指針」(平成26年9月2日総務大臣決定)では、「各法人の事務・事業の実態やこれまでの効率化努力等を踏まえ、画一的で硬直的な目標ではなく、法人の特性及び事業等の内容に応じて適切な目標を策定する」として、具体的には「法人の業務量の増減も踏まえ、組織体制の見直しや事務所等の統合、調達方法の見直し、人件費管理の適正化など、業務の改善に向けた取組について具体的かつ明確に定めるとともに、当該取組の結果削減等がなされる経費等(一般管理費や事業経費)についても、目標を定める。」として、各独立行政法人の実情を斟酌することとしつつ、引き続き業務運営効率化目標を設定するよう指針を設けている。
 平成28年度には、各国立研究開発法人より「国立研究開発法人の抱える運営上の課題について」(平成28年11月29日国立研究開発法人協議会)と題し、「運営の基盤となる「運営費交付金」は国立大学法人同様、年々削減傾向が続いている」「国立大学法人と異なり一般管理費の削減義務が中期目標上課されている。(累計すると平成27年度末で▲30%(平成13年度比))」との現状認識を示し、最も「深刻な影響がある課題」であり、最も「切迫度の高い課題」として一般管理費削減目標(≒業務運営効率化目標)を掲げている。

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